「背骨の歪みは万病の元」「骨盤の歪みは万病の原因」・・・
整体やカイロプラクティックの案内などでよく目にする言葉です。
しかし、この「背骨の歪み」「骨盤の歪み」に対する一般的な認識には、かなりの誤解があるようです。
■「肩の高さ」や「足の長さ」の違いは?
一般的に、肩の高さの左右差、首の傾き、足の長さの左右差などを基準に、背骨や骨盤のゆがみを指摘されることがあります。
頭の角度(顔の向き)なども指摘されることがありますが、まず基本的に、それらの歪みは誰もが持っています。
おそらく、全くない人など一人もいないでしょう。
そして、それらの見た目の歪みが、必ずしも痛みや病気の原因となっているわけではありません。
たとえば、肩こりのひどい人が鏡を見て、自分の左右の肩の高さが違っていることに気づいたとしても、その肩こりが、肩の高さの違い(=背骨の歪み)で起こっているとは限らないのです。
しかし当然、度を超した歪みがあるのはよくありません。
では、どの程度までならその歪みには問題がなくて、どの程度の歪みがあると、体に支障をきたすのでしょうか?
実は、その幅には個人差があります。
たとえば、仮に2cmの歪みでも、ある人にとってはそれが普通の姿だし、ある人にとってはそれが異常ととれる、そんな違いがあるんです。
その人にとって、それが普通の姿なのか、あるいは異常なのか、それを見極めるには、その人の生まれ持った骨格の特徴や、全身の体の弾力などを把握して判断しなければなりません。
それを見極めるのが整体等の専門家の仕事であって、最初から「背骨の歪みが原因」と決めつけるのはおかしいのです・・・
まぁそれはともかく、自分で判断するには、その歪みによってどんな支障を感じているか、が基準になるでしょう。
背骨が曲がっていて、その曲がっている部分に痛みを感じたり、曲がっているせいで動きにくい、取りにくい姿勢がある…等の問題があるかどうかです。
(お困りの方で、きちんと確認・調整したい方は、整体をお受けになってください。)
■歪みは「現象」であって、「原因」ではない
ひどい歪みによって痛みが起こることは実際にありますし、後述する「脊椎側湾症」と呼ばれるような、極端な歪みもあります。
しかし、その歪みも、何らかの原因があって起こることです。
背骨や骨盤の歪みは「現象」であって、何か別の原因があって起こっていることなんです。
よく「普段の姿勢が悪いから、背骨や骨盤が歪むのだ」ということが言われます。
たとえば、「足を組む癖がいけないんだ」とか。
しかし実際には、骨盤や背骨が歪んでしまうほど、足を組み続けることは難しいのです。
よほど長時間、同じ組み方で固定したまま、毎日を過ごす・・・というのでない限りは。
たいていの場合は、いくら足を組んでいたとしても、何度も組み替えたり、途中で立ち上がったりのくり返しのはずです。
しかも、その程度のゆがみだったら、他の姿勢をしている間、あるいは寝ている間に解消されてしまいます。
ただ、「職業病」と言われるように、体の一部分に極端に緊張させたまま酷使し続けるような場合は、話は別です。
それが何時間も、そして何ヵ月を続けていれば、その姿勢に即した歪みが発生することは実際にあります。
■背骨の歪み、骨盤の歪みの原因
上記のような特別な環境における姿勢の影響以外には、どんなことが歪みの原因になっているのでしょうか?
「職業病」でも、たとえば腕ばかりを使う職業の人ならば、腕の疲れの蓄積が背骨に表れてくることがあります。
また、他の理由として、内臓の疲れによっても背骨には歪みが生じます。
たとえば、肝臓が疲れてくると、「胸椎の8番・9番」という場所の右側に硬直が表れます。
長期に渡っていれば、その硬直は激しくなり、それが原因となって、背骨が傾いたり捻れたりという『歪み』が起こります。
頭の使い過ぎで脳が疲れれば、首~首の付け根あたりが硬直し、ひどくなれば腰にも及びます。
こうした内臓や脳などの異常が背骨に表れて、それがやがて歪みとして表れてくるのです。
しかもこれらの歪みは、一ケ所だけで起こるわけではなく、長期に渡ればその硬直の範囲が広がります。
また、一ケ所が歪んだままではバランス取れなくなるために、今度は別の場所がそのあおりを受けて疲労し、硬直し、また歪みが発生します。
その歪みの拡大や移動が、腰に達すれば腰痛に、肩に達すれば肩こりや四十肩として表れることがあります。
■背骨の歪みと「心」の関係
実際のところ、背骨が大きくゆがむ原因には、心理的な問題が最も多いです。
何かを耐える時には身をよじらせて我慢するように、ガッカリした時には背中を丸めるように、心の様子というのはその姿勢に表れます。
一時的なものであれば特に影響はありませんが、そうした心理状態が常に続けば、固定化されてしまうものです。
その心理状態というのは、自覚できない場合も多いのです。
自分では平気でいるつもりでも、心の奥ではいつも我慢しているとか、自分の弱さを認めたくなくて、いつも強がっているとか。
特にこういうことは、まだ心も体も成熟していない子供の頃に起こりがちです。
というより、子どもの背骨の歪みの大半は、心理的な問題の現れであると思ったほうがいいでしょう。
親が厳しくて、いつも我慢している子もいるでしょう。
親が忙しくて、いつも寂しさをこらえている子、
親の価値観を押し付けられ、いつも自分の本当の希望を抑えている子、
親の期待に応えようとして、いい子を演じている子・・・
しかしそうした本当の気持ちを、子どもは言葉にできません。
だから、内側でこらえるしかないのです。
■脊椎側湾症状と子どもの心・体
心と背骨は密接に繋がっています。
その背骨が、これからまっすぐ伸びていこうとするのが子供の頃です。
そして、心もまっすぐに伸びていこうとしているのが本来の姿です。
しかし、その伸びようとする心を押さえられてしまうと、内側で曲がってしまいます。
「脊椎側湾症」のほとんどが、子供のうちに起こっているのには、そういった原因があってのことと言えるでしょう。
(横に曲がる側湾症に限らず、極端な猫背なども同じです。)
ちなみに大人の場合は、こうしたストレスを、ある程度いろんな形で発散することもできます。
酒を飲んだり、カラオケで騒いだり、やけ食い、衝動買い・・・
好きな事をしては、不平不満を口に出したり、人の悪口を言ってみたり。
だけど子どもがそんな行動を取ったり、不平不満を言おうものなら、余計に大人に怒られてしまいます。
だから自分の内側に溜め込むしかないのです。
こうして、子どもは自らの体を歪ませたり、壊したりしていきます。
それ以外原因はありますが、ともかく、脊椎側湾症の体を整えるには、ただ背骨をまっすぐに矯正するのではなくて、その「抑え」を取り除いたり、体にたまったストレスを取り除いていかなければなりません。
■背骨の歪みはストレスの「クッション」
とにかく精神的なストレスであれ、肉体的なストレスであれ、ある意味では背中を丸めたり、体を傾けたりすることで受け止め、こらえ、表現しているのです。
そのことに目を向けず、例えば背中に棒を当ててまっすぐな姿勢を取らせたり、無理矢理矯正したりして、形の上だけでまっすぐにするのは大変危険なことです。
そうすると、背骨を曲げることでこらえていたストレスが、行き場をなくすことになります。
あとはそのまま、ダイレクトに脳・心に突き刺さっていくしかありません。
内臓の疲れや筋肉疲労にしても同じです。
背骨で起こった歪みや硬直が頭にまで達してしまうと、脳の問題にまで発展してしまいます。
足にまで広がれば、歩けなくなってしまいます。
そうした背骨の持つ意味や役割を無視して、形だけ整えることがいかに危険なことか、おわかり頂けるかと思います。
英語では背骨のことを「バックボーン」と言いますが、それは「精神的な土台」という意味でも使われる言葉ですね。
骨盤や背骨は、身体の『物理的な柱』であると同時に、心理的な土台、柱でもあります。
その一方で、「背中で語る…」というように、背骨には、口では言えない、顔には表せない、体や心の奥にしまいこんでいる『本当の姿』を、さり気なく表現していたりもするのです。
本当に必要なことは、その「本当の姿」に気付き、心身を健康に導いていくことではないでしょうか。
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