ちょっと古い話になりますが、ウサイン・ボルト選手の早さの秘密は、独特の走り方にある、ということが何人かの専門家によって指摘されていました。
(黄色いユニフォーム、前半では内側から4番目、後半では5番目がボルト選手。)
特に気になるのは、上半身の動き、つまり背骨の動きです。
他の選手にくらべ、上半身をクネクネと揺らせながら走っています。
特に首の横揺れ、肩の横揺れをみているとわかりやすいです。
特に前半、最も力の必要なスタート直後の揺れは大きいですね。
自転車でいうと、こぎ始めの最もペダルが重いタイミング。
この時に、大きく背骨を横(実際には捻りも加わっていますが)にしならせる動きを繰り返すことで、大きなエネルギーを生み、それを足に伝えてスピードに変えているわけです。
スピードが乗ってきた後半には、横揺れがやや減って、そのかわり腰の前後運動が大きめになっていく傾向があります。
後半になれば、力よりも、いかにそのスピードに乗るか、が大事ですからね。
自転車でも、ある程度スピードが出れば、力を入れてペダルをこぐ必要もなくなってきますよね。
つまり、エネルギーの源は、背骨の動きにあるということなんです。
背骨をしならせ、それを元に戻す・・・という動きを、ものすごいスピードで繰り返しています。
弓を射って矢を放つ時の原理と同じですね、弓を思い切りしならせ、それが元に戻る力で、矢は放たれます。
その動きを、細かく高速で行われているのが、ボルト選手の走りのようです。
もちろん、他の選手の体内でもそのような動きは行われているんですが、ボルト選手は意識してか、無意識のうちでかは知りませんが、特にその背骨の弓のような動きが強いようです。
他の選手は、それよりも足の力とか、体のもっと表面の筋肉を鍛えることに一生懸命なのかもしれません。
この弓のような背骨の動きというのは、他のスポーツでもよくみられます。
バレーボールのスパイクも、決して腕の力や肩の力で打つわけではなくて、背骨の「弓の力」ですよね。
サッカー選手が思い切りシュートを打つ時も、体全体が弓のようになっています。
決して足の強さの問題ではないようです。
野球のピッチャーがボールを投げる時も、バッターがボールを打つ時も同じです。
イチロー選手の動きには奇麗な弓が描かれていますが、彼が年齢を重ねても、ある程度好成績を残し続けてきたのは、その動きのおかげでしょう。
一方で、松井秀喜選手のように、比較的腕力、筋力を使うタイプの選手は、怪我も多いし、年齢とともに衰えが見られやすい傾向があるようです。
スポーツ選手に限らず、一般の人の体の動きも、背骨のしなり、背骨を力の発生源とする動きを重要視したほうが、体は安定します。
何と言っても、背骨は日常の姿勢を支えているわけです。
・・・細かいことを言えば背骨を支えている筋肉ですが、まぁ細かいことは抜きに、ここでは「背骨」とさせていただきましょう。
立つ、座る、歩く、といった最も基本的な姿勢や動作の元になっているのが、背骨です。
どんなに手足の筋肉を鍛えても、腹筋や胸筋をムキムキに鍛えても、この背骨の力や、柔軟性が無くなっては、立つことも歩くこともできません。
まだ歩けない赤ちゃんは、まず最初に背骨を鍛えることから始めます。
寝返りをしたり、大きく背筋を反らしてみたり、ずりばい、ハイハイも背骨を鍛える動きです。
それが、人間の一切の動きの基本になるからです。
さらには、身体の動きだけでなく、内蔵諸器官の働きや、神経(精神)の働きにも大きな役割を果たしているからです。
極端な言い方ですが、手足や表層の筋肉の動きは、それを補助するものにすぎません。
弓のように、強さと柔軟性が共にある、弾力ある背骨が最も大事なわけです。
スポーツ選手の場合などは、その背骨の力だけでは足りないのでしょう、だから手足や表層の筋肉を鍛えて補う必要もあるのでしょう。
だけどそれらはあくまでも「補う」ためであって、基本の背骨がしっかりしていないことには、表面ばかりが固くなってしまう、ちぐはぐな体になってしまうことでしょう。
近所を元気に走り回っている子ども達の走りを見ていると、そのほとんどが、首を振り、背骨をクネクネと動かしています。
自転車をこぐ時も、体を左右に揺らしています。
まだ筋肉の発達しきっていない彼らだからこそ、そして、背骨のしなやかな子どもだからこそ、その芯の背骨の力を最大限に利用して走ることができるのでしょう。
体が小さいから、スピードはあまり出ないかもしれませんが、持久力は凄いですよね。
無駄な力を使わず、「背骨のしなり」による走りだからでしょう。
背骨の固くなった大人は、そうはいきませんよね。
ともかく、私達の体の動きや姿勢というのは、その中心である背骨と、土台である腰が大事だと言えます。
腕を鍛えても、脚を鍛えても、腹筋背筋を鍛えても、残念ながら健康な体は得られません。
苦しい筋トレで固い体をつくるのではなく、芯から丈夫でしなやかな体づくりに取り組んでいかなければなりません。
歳をとっても経って歩ける体とは、そういうものです。