「体が柔らかい」というと、両足が180度近く開くとか、両手を背中で楽に組めるとか、手足の柔らかさばかりが注目されるような傾向があるような気がします。
一方で、「背骨の柔らかさ」ということに注目する人は少ないのではないでしょうか。
二本脚で立つ人間の体にとって、背骨は体を支える重要な「柱」です。
だからその固さ、頑丈さ、あるいは歪みがなく真っ直ぐであるか、といったことばかりが大事にされるような傾向がある気がします。
しかし背骨は「支える」だけでなく、様々な動きの源となる場所です。
だからその柔軟性はとても大事です。
(細かいことを言えば、骨そのものというよりそれを支える筋肉群も含めてのことですが...話を判りやすくするために、「背骨」で話を通します。)
人の体は、人形のように、それぞれの関節が単独で動くようにはなっていません。
人形の腕を回そうとすれば、動くのは肩の関節部分だけでしょう。
脚ならば股関節の部分さえよく動くようにしておけば問題ありません。
しかし人が腕を回す時には、肩の関節だけでなく、様々な部位が連動して動くようになっています。
たとえば、ろっ骨を折った時などは、その痛みで腕を回すことさえできません。
腕の動きと、ろっ骨の動きは連動しているからです。
背骨を痛めた時なども同じで、腕を動かすたびに背中に痛みが走るはずです。
本来、動物の体の動きというのは、背骨を中心に起こるものです。
脊椎を損傷すれば、手足を動かせなくなることでもお分かりでしょう。
動きの本当の源は脳にあると考えるのが妥当ですが、脳の中にあるのは、まだ動かそうという意欲・計画だけなんです。
その計画を反映し、実際に動かしていくのは背骨です。
背骨の動きがあって、それに手足の動きがついてくるのです。
足を使って歩くのも、背骨の動きが最初にあるのです。
これは手足を持たない魚や蛇などの動物を見てもわかります。
魚や蛇は背骨をクネクネと動かすことで泳いだり、地面を這ったりして前に進みます。
手足を持つ動物は、この背骨の動きを手足に伝わらせて、それで進んでいるだけなんです。
背骨自体は、蛇や魚と似たような動きをしています。
ワニやトカゲなどの手足があまり発達していない動物が歩く時の動きは、まさに蛇や魚にそっくりです。
もう少し手足に比重をかけた動きをするようになったのが四つ足動物の哺乳類ですが、それでも背骨の動きは蛇や魚に似ています。
チーターが全速力で駆け出す時の動きなどは、むしろ魚よりも背骨の動きが大きく見えます。
背骨を弓のようにしならせたり伸ばしたり、そしてそこに捻りの力も加味することによって、あのスピードと跳躍力が生まれています。
手足はそれを支え、方向づけをしているだけです。
(だからとても細い手足をしていますよね。)
二本脚で立ち上がった人間も、実は似たような動きを背骨でしているのです。
それを二本の足に伝えて歩いているのです。
二足歩行ロボットの動きというのは、どうしてもぎこちないですよね。
あれは、足だけを動かしているからです。
背骨の微細な動きとその連動性は、現代の科学、工学をもってしても、再現できないんでしょうね。
止まっているだけ、あるいは特定の動きしかしない人形なら、本物の人間そっくりに作ることができるのに・・・
そう考えると、私達の背骨っていうのは凄いことを日々やってのけているわけです。
ともかく背骨というのは、もの凄い力、能力を秘めています。
それが鈍くなると、体力的にも、精神力も、頭の働きも衰えてきます。
歳を取ると足が弱って、そうすると一気に体が衰えるといいますが、本当は足が弱るから衰えるのではないのです。
足が弱る前に、既に背骨の鈍り、硬直が起こっています。
それが背骨だけに収まらず、足にまで溢れ出るようなレベルになって、一気に衰えが加速するのです。
だから足を鍛えることよりも、背骨を丈夫に、そしてしなやかに保つことは何倍も大事です。
だから当塾では、活元運動(自働運動)などの運動で、背骨のトレーニングを重用ししています。
ただ、活元運動だけではどうしてもダメな面もあるので、やはり意識的な体操などの意識的な動きによるトレーニングも必要です。
動きの源である背骨が鈍ると、動きそのものが、そして行動すること自体に鈍りが生じます。
頭の中にある動こうという計画を、実際の形に表せなくなります。
だから考えばかりが頭の中で堂々巡りを起こし、行動をしなくなってきます。
理屈ばかり言って動かない人とか、口うるさいばかりで自分では何もしない人・・・なんていうのも、背骨が鈍いんです。
臨機応変に、物事に対応できない人なんていうのも、本当は「頭が固い」んじゃないんですね(笑)
背骨が硬いんです。
ところで、手足を使った運動というのは本来、その連動性を利用して、胴(体幹部)に変化をもたらす効果があるんです。
例えば座って開脚をするポーズなども、足を開くことによって、腰の反りとか、胸の開きを誘導することができる体操です。
足を前に伸ばして前屈する体操も、背骨の脇の筋肉を伸ばす効果があり、さらには首の動きなどにも連動します。
逆に言うと「股関節を柔らかくしたい」という人も、背骨を柔らかくしていかなければならないわけです。
だから当塾の整体では、足が痛い人でも背中をみるし、首が痛い人でも足を動かしたりします。
人の体は全部繋がっているからです。
そして体全体をつないで動かしているのが、背骨です。