かなり深刻な事例でした。
というのは、心理的な面も含めてです。
口がちゃんと閉じられない、目を閉じたつもりでも瞼がふさがらない・・・
顔の片側が、そのような状態になってしまっていたのでした。
だから食べ物、飲み物も、手で口を押さえながらでないと食べられない。
人に顔を見られるのが嫌で、外出もできない。
やはり顔面の神経麻痺というのは、あまりにもショックで、辛いものです。
このまま治らなかったらどうしよう・・・と不安になるのも無理はありません。
病因で診てもらったところ、
「細菌感染によるものの可能性が高い」、
「脳梗塞、脳溢血などといった問題もあるかもしれない」、
「炎症が大きくならないように手術した方がいいかもしれない」・・・と、不安の上に不安を重ねられるような診断が下されました。
しかしそのまま不安に浸っていたのでは、可能性を自ら断ち切ってしまうことにもなりかねません。
少々強引な手段なのですが、その不安に溺れそうな本人の態度を厳しく一喝し、気を引き締めさせました。
そういったことも、場合によっては必要なのです。
ただ、それでも本人の動揺はすぐにはおさまるものではありません。
病院に勧められるまま、一時は入院することになりました。
しかしそれで、ふと気持ちが落ち着いた途端、厳しく言われた言葉を思い出し、
「このまま入院していたのでは、益々不安になるだけだ、治そうという意志が消されてしまいそうだ!」
と思い直したそうです。
その日のうちに退院することを決意しました。
(しかし通院して、投薬治療は受けるという条件付きではありました。)
それでも、病院では
「短くても半年以上は治らない」、
「後遺症が残る可能性もある」、
「その後の検査結果によっては、脳の手術を行う必要がある』
・・・などと言われていたそうです。
しかし、その後2ヶ月も経たないうちに人前に出られるようになり、その後は一切後遺症も残っていません。
もちろん検査の結果、手術も必要なく、異例の回復を遂げたわけです。
短期間に集中的に整体を行った結果です。
技術的な面では、背部や頭部、顔周辺などの調整が主だったものでした。
それに薬の副作用のケア(これがなかなか手強く、特に腎臓がかなりのオーバーヒートを起こしているのに手を焼きました)。
しかし重要なのは、ごく僅かな変化でも見逃さず、良くなった所を自分で認めること(仮に“気のせい”と思えるレベルだとしても)。
そして教えた体操やセルフケアを毎日行うことを徹底すること・・・
こうした「心の使い方」というのは、特に顔の症状にはとても大事なのです。
また、詳しいことは書けませんが、この症状は幾つかのストレスが同時期に重なっていた時期に起こったのでした。
そうした心理的な要因、症状自体への不安、感情面にも随分と気を配りながらのやりとりでしたが、実はこのことが一番大事な点だったと思っています。
症状がほぼ治ってからすぐ、ご自分の意志で、今までの環境をガラリと変えることを決断されたようです。
この症状がきっかけで、今の環境が自分には合っていないという事を、素直に受け入れることができたのです。
そして、ようやく「腹が決まった」のでしょう、その後はトントン拍子に、理想的とも言える環境が整っていったのでした。
極度のストレスに人は「歯を食いしばり」ます。
それが歯ぎしりや顎関節症といった、歯や顎の症状として出ることもありますが、それのもっと激しいのが、顔の動き全体がおかしくなる顔面神経麻痺や顔面神経痛です。
相当のストレスを、心身の内側に、 溜め込んでいたのでしょう。