前回は、人の感受性には大きく分けて二つのタイプがある、という話を書きました。
一つは他の人達と同じ感情や体験を共有し、分かち合うことに喜びを感じる「共感タイプ」。
もう一つは逆に自分だけの世界、他人にはない自分の価値を見いだそうとする「自我タイプ」です。
極端に言えば、共感タイプの人はできるだけ多くの人と「同じ」でありたいと感じるし、自我タイプの人は「自分は人とは違う」と考えたいタイプです。
ですから前回は、自我タイプの人に対して「それ、私もわかる!」などと言ってはいけないというようなことを書きました。
自我タイプの人にとって「私もあなたと同じだよ」と言われることは、自分の価値を軽く見られるようでとても嫌なのです。
しかし共感タイプの人は全く逆で、わかってもらえることで自分の「存在意義」を感じるのです。
例えば、流行の映画を見たとしましょう。
共感タイプの人は、その映画を見た人同士で感想を言い合うことが楽しくてしかたありません。
「あのシーンはとても感動したよね!」というように、他の人と意見が合うとさらに嬉しくなります。
そして、もっと多くの人とその感動を共有したくて、他の人にもその映画を勧めたくなります。
共感タイプの人は、「人は皆同じような感受性を持っているものだ」という価値観を持っています。
ただ本人にその自覚はあまりないようで、口では「人それぞれ、個性があるから…」というようなことも言うのですが、実際のその行動はそうではありません。
「自分がいいと思ったものは、他の人もいいと感じるはず」と思っているかのごとく、とにかく自分の好きな物を他人にも強く勧める傾向があります。
だから自分が感動した映画は、他の人もきっと同じように感動してくれるに違いない、と思うし、そうでなければ嫌なのです。
ところが、自我タイプの人にとっては、それがとても嫌なのです。
まず、「人に勧められて…」ということ自体があまり好きではありません。
自分の好みは自分の価値観で決めたいと考えます。
そして、映画のストーリーを延々話されることが退屈で仕方ない。
「人から聞いたってわからない」というのが自我タイプの感受性なのです。
これが共感タイプ同士となると、興奮して映画のことを語る姿に影響されて、なんだか聞いているほうまでワクワクしてきます。
「そんなに感動できる映画なら、見てみたいな!」という気になってきます。
しかし自我タイプの人は、そんな様子も客観的に見ているだけです。
決して興奮が伝染することはなく、「自分が話したいだけでしょ?」と感じてしまいます。
そんなふうに共感してもらえないと、共感タイプの人は傷つき、落ち込んでしまいます。
まるで自分の存在を軽んじられたかのような気分になってしまうのです。
昔から、「自分がしてもらって嬉しいことを、他の人にもしてあげましょう」というようなことが言われています。
きっと皆さんも、道徳教育としてそのような教えを受けてきているはずです。
しかし、この「自我と共感」のタイプの違いのことを知ると、それは大きな間違いであるということにお気づき頂けるでしょう。
違うタイプ同士の関係においては、自分が言われて嬉しい言葉が、相手を傷つけたり侮辱したりする言葉にもなってしまう可能性すらあるのです。
人間関係で悩む人の多くが勘違いしているのは、それが「自分の思いが通じない」「自分の望むような対応をしてくれない」という悩みである、ということです。
そうするとつい、より強く自分の思いを、自分の感性でもって相手にアピールするようになってしまいます。
その結果、どんどん溝が開いていってしまう、というようなことになります。
このように感受性が違う以上、相手の心を開かせるには、ちょっとした工夫が必要、というわけですね。
ちなみに、不思議なことに、多くの人は自分とは逆のタイプの相手を恋人に選び、夫婦になることが比較的多いです。
同じタイプの人同士のほうが分かり合えるし、一緒にいて居心地がいいんですが、何かドキドキ感が足りないんでしょうね。
「ときめき」というのは、自分にはないものを持っている相手に感じるものですから、どうしても違うタイプの人に惹かれるのでしょう。
また、子どもの頃は皆共感タイプがかなり色濃く出ますが、まれに極端な自我タイプの子もいます。
そういう子は「変わっている」と思われがちですが、たまたまそういうタイプなだけで、別段異常なわけではありません。
タイプが違うということは、どちらにしても半分は我慢しなければならない、ということです。
また、大人と子どもの我慢する能力の差を考えると、やはり大人は我慢と「違いを認める」という懐の深さを持たなければならない、ということでしょう。
なお、この二つのタイプは、はっきりとどちらかに分かれるというものではありません。
おそらく誰もが両方の素質を持っていて、どちらかの比率が高くなっている、ということだと思われます。
ある人は自我タイプ70%・共感タイプ30%であったり、また別の人は自我タイプ20%・共感タイプ80%、というように。
さらに、仕事に対しては自我タイプの傾向が強く出るけれど、恋愛では共感タイプの特徴が出てくる、というように、場面によって出る傾向が違う場合があります。
見た目の印象としては、共感タイプの人は表情豊かで、服装も割と派手な、カラフルなものを好む傾向があります。よく笑い、声も大きいです。
自我タイプの人は比較的無表情で、普段は口数が少ない印象があります。しかし自分の得意分野の話になると饒舌で、時に熱く語ります。落ち着いた雰囲気の服装の人が多いですが、たまに個性的なファッションの人もいます。