もう10年以上前の話ですが、ある心理療法のセミナーに参加していた時のことです。
その心理療法は、クライアントの家族構成や生い立ちなどを聞くことから始まり、対話を続けていく中で、今抱えている問題の解決法を誘導していく、というものでした。
しかし、今抱えている問題が、随分昔の出来事や経験、あるいは幼い頃の生い立ち、複雑な家庭環境・・・といった「過去」に原因がある場合は多いはずです。
そのセミナーの途中にもそう感じまして、まぁ、若気の至りとでもいいましょうか、
「根本的な解決のためには、その過去の原因にまで直接アプローチしなければいけないんじゃないか??」
なんてことを思ったわけです。
で、セミナーの講師の方に質問してみました。
「原因が過去にあるのに、どうやってそれを取りのぞいていくんですか?」というようなことを。
そのとき講師は、一瞬ムッとしたような、悔しさをこらえているような表情をしたように見えました。
だけど冷静に、静かな口調で、
「問題は過去じゃなくて今、その人の中にあるんです。
今なにをすべきかが大事です。」
というようなことを答えてくれました。
そしてさらに一言、
「こういう質問はよく頂くんですが、いかに多くの人が間違ったことを学んできているかという証拠ですね…」
と付け加えました。
このことを、その講師の方はいつも悔しく思っていたのでしょう。
で、その答えを聞いた私は、しばらく落ち込んでしまいました。
自分の浅はかさに対する恥ずかしさとか、今までそんな間違った考え方で人を見てきたのか・・・とか。
当塾では今でも、「真の原因を探る」というようなことを謳っています。
確かに原因というのは過去にある何かかも知れませんが、過去のことは、現実的にどう変えることもできません。
自己啓発によく見られる言葉のように、「捉え方を変えれば過去は変わる」なんていう使う古された言葉をいくら言われても、やはり過去のことそのものは、過去のことなんです。
問題は、その過去の影響が、今の体・心に残っている、という点です。
そのこと自体は、過去ではありません。現在進行形です。
だから本当は、今現在の体、心を見て、どう軌道修正をしていくか、そこにしか答えはありません。
いくら「過去にこんな辛いことがあったから…」と、その過去の体験に意識を向けて、そしてそれを慰めたり、それを人にわかってもらおうとアピールしたところで、そこには答えがないように思うのです。
真の原因というのは、今現在、その体に刻まれているもの、そのものです。
それが過去の古傷だろうが何だろうが、今です。
過去の苦しみをあれこれ並べるよりも、今から出来ることを考えたほうがよっぽど建設的です。
整体では、必ず体に触れて「観察」をしますが、昨日の体、1年前の体、10年前の体に触れることは決して出来ません。
もちろん、今に至までの歴史をそこから感じることはできるけど、変えていけるのは今、でしかありません。