整体の世界では「宵越しの風邪をひかない」というような言い方があります。
スパッと熱を出して、数時間で風邪を経過できるのが整った体だ、と。
私はこのことにずっと疑問を持っていました。
実際には、数時間で終わってしまう人なんて滅多にいないこと、体が敏感な子供でさえ、数日かかること・・・
様々な実体験を踏まえて、この「宵越しの風邪をひかない」というのは、ほぼ『伝説』あるいは『迷信』に近い考え方なんじゃないかな、と思うようになっていきました。
経過するのに四日かかるものは、四日かけるだけの意味があります。
発熱は、たとえて言うならば「煮沸消毒」みたいなものですから、短時間でサッと済ますよりは、じっくり時間をかけたほうがいい場合もあります。
今回、三日にわたる発熱・発汗を体験して、改めてこのことを感じた次第です。
ところで、このような『迷信』は、整体の世界にはよくあるのです。
整体の世界に限らないかもしれませんが、過去の有名な先生が、ちょっと手を施しただけで、立てなかった人が自分の足で歩いて帰ったとか。
他にも、ある「急所」を刺激しただけで十年来の皮膚病が治ったとか、不治の病が治ったとか・・・
そういう逸話は山ほどあって、本にも書いてるし、多くの人によって語り継がれているものもあります。
その逸話自体は決して嘘ではないのでしょう。
実際にあった話だと思うんですが、それらには再現性のないものも多いように思うんです。
その過去の有名な先生だからこそ、また、身体的にも心理的にも、様々な要素が絡んで、そのような奇跡のような結果を引き起こすことができた、でも他の人がそれを真似してみたところで、同じような結果が出ない。
結果が出ていないのにもかかわらず、それでも信じている人がいます。
私自身もそうでしたが、迷信というのはそこが恐いのです。
現実が見えなくなっていること。
または、本を読んだり、人づてにその逸話を聞いただけで、鵜呑みにしてしまう人もいます。
誰でも奇跡的なものには惹かれるものですが、奇跡というのはいつも、現実から得られるものを見えなくしてしまうものです。
たとえば、三日にわたる発熱には、三日かけなければ処理できない要素が体にあった、ということです。
これは風邪に限らないし、病気に限った話でもないでしょう。
当塾では、病には「役割や効用がある」ということを常に主張しています。
病気になったら、奇跡を求めて『伝説の整体』なんかを探すよりも、改めて自分自身の今までの心身、生活を真摯に振り返ってみるほうが、結果として本当の解決につながっていくはずです。
そもそも整体というものは、そのお手伝いをするものだと考えています。