随分昔の話なんですが、知り合いの人たちと話していた時に、音楽の話題になりまして、それで誰かが「ブルース」について語り始めたんです。
すると、その中の一人が、「自分もブルースが好きだ」「ブルースって最高だよね」というようなことを言い始めました。
しかし話が進むにつれて、だんだん噛み合なくなってくる。
どうやら、あまり「ブルース」について詳しくないようなのです。
まぁ別に、詳しくなくたって好きでいてもいいんですが、しかしよく聞いてみると、その人が言う「ブルース」っていうのは、とてもブルースと言えるような音楽ではなかったんです。
私もあまり詳しいわけではありませんが、ブルースと言えば、例えばマディ・ウォーターズとか、BBキングとか、バディ・ガイとか、そういった黒人ミュージシャン達が有名ですが、そういった人たちの名前はほとんど知らないようなんです。
せめてエリック・クラプトンぐらいは知っているかな、と思ったら、確かにクラプトンは好きだと言う。
ところがそれも、当時流行っていた曲を知っている程度で、しかもその曲は「ブルース」と言えるような曲でもない。
で、何をもって「ブルースが好き」と言っているのか確認してみると、たまたま気に入った日本人歌手が「ブルース」の影響を受けていると発言していたというだけで、その歌手の音楽を「ブルース」だと思って聞いている、という話なんです。
本人はそれでブルースを聞いているつもりなので、堂々と、しかも興奮気味に話題に参加しているのですが、そのブルースの話を切り出した人は、「えぇ!なんか違う」と引いている、他の人はその様子を察して気を使っている...
その場にはそんな、それぞれ食い違った空気が流れておりました(笑)
何だかその自称「ブルース好き」の人のことを悪く言っているかのようで申し訳ないのですが・・・
だけど、ちょっと聞きかじった程度で、それで全部判ったかのようなつもりになるっていうのは、やはりよくないと思うんです。
こういうことは、整体やヨガの分野でもよく見かけることです。
表面的なことだったら、すぐに真似を出来るかもしれないし、すぐに判ったつもりになるかも知れません。
とりあえず整体っぽいこと、ヨガっぽいこと、セラピーっぽいことなら、誰かの真似をすればすぐに出来てしまうかもしれません。
そして近頃は、「真似をすればできる」「言われた通りにやれば結果が出る」といったマニュアルや資格が、数多く売りに出されています。
だからわざわざ「本質を探る」などという面倒なことをしなくても、習ったことを暗記すれば、「プロ」を名乗って活動できてしまう。
いや、暗記さえしなくても、困ったらマニュアルを見ればいい。
もしマニュアル通りにやって対応できないことがあれば、そのマニュアルのサポートセンターに聞けばいい。
それでもダメなら、そういう相手には関わらなければいい。
「だからどうぞ安心して、自信を持って取り組みましょう」、なんていうことが言われているわけです。
そして本質など判らないまま、自信だけがある人が増えていく・・・
自信を持って物事に臨む事は大事だし、「自信がなくても自信があるフリをして、自分を奮い立たせる」という考え方もあります。
だけど私は、本当は違うと思うんですよね。
自信がなくなって、どうしていいか判らなくなった時にこそ、人は何かを吸収しようとするものだと思うんです。
お腹が空いた時こそ食べ物は栄養として吸収されるように、足りない時こそ伸びる時だと思うんです。
仮にマニュアル通りのことをやっていたとしても、それが通用しない時こそ、伸びるチャンスです。
マニュアル以外の世界に、自分を拡げるチャンスです。
マニュアルを繰り返し読んだって、そこには答えなどもうありません。
というより、最初からなかったんですから、本当は。
本質っていうものはいつも、マニュアル化できないモヤモヤした部分にあるものです。
海の表面の水だけすくったって、そこにはその海のなりたちを示す成分なんてほとんど含まれていません。
それは底に溜まった土の層の、奥のほうまで掘り起こしてはじめて判るものです。
そしてその海底にも、一度や二度飛び込んだくらいでは、とてもたどり着けません。
当塾の整体法講座は、決して「マニュアル」的なものをお教えするものではありません。
何回出れば何らかの資格がもらえる、というものでもありませんし、プロになれる保証も、気に入らなかった場合の返金補償などもありません。
ですが、この教室で学んだ一つ一つのことを、とにかく何度も繰り返していくなかで、それぞれご自身の中で、育てていって頂きたいと思います。
私自身も、そうやって実際の体験の中で、理解を深めてきました。
もちろんお教えできること、お答えできることについては出し惜しみをするつもりはありませんが、その日お答えしたことの何倍もの意味が、一つ一つの答えの後ろ側にあると思います。