ギックリ腰と体の歪み

体と心の話

当塾には、ギックリ腰になって慌てて来られる方も時々いらっしゃいますが、突然起こったギックリ腰にも、実はそこに至る長い歴史がある場合がほとんどです。

 

本当の原因は、「重いものを持った」とか、「無理な姿勢をした」という一時的なものではなく、実はかなり体には疲れがたまって来ていて、たまたまその時重いものを持ったことが「きっかけ」になっただけ、ということが多いんです。

さらに深く追求すれば、その背後に心理的な要因があることも多い(というか実際はほとんど)です。

 

それはともかく、逆に考えると、その痛みが発症した時というのは、体の疲れが表に出て来た「ピークの時」ということもできるんですね。

いい喩えではないかもしれませんが、地震の原因というのは、プレートの歪みですよね。

長い年月をかけて重なっていったプレートが、跳ね上がることによって起こる揺れですよね。

だけどその跳ね上がりが起こったということは、プレートの歪みがある程度解消された、ということでもあります。

その後も余震は続きますが、本震ほどの大きなものではないですよね。

 

ギックリ腰も似たような特性を持っていて、最初の大きな痛みが、本震のようなものです。

その後も痛みは続きますが、その規模は小さくなっていくのが普通です。

よほどの無理をして動き回ったりしなければ・・・

というより、無理が出来ないですよね、痛くて。

否が応でも無理をさせないように…という、体からの指令であるような気もします。

 

とにかく、通常は一日目よりも二日目、二日目よりも三日目のほうが、症状は軽くなっていくものです。

あまり差を感じられないほどの変化でしかない場合もありますが、少なくとも、普通は悪化していくことはありません。

だけど、普通じゃない場合があるんですね。

 

その理由の一つは、不適切な、人工的な刺激を与えてしまった場合です。

不適切な治療、処置をしたことによるものです。

 

以前、ギックリ腰で来られた知り合いの人の話なんですが、ある日の作業中に痛めてしまい、慌てて近くのカイロ院に駆け込んだそうなんです。

最初から当塾へ来ればよかったんですが(笑)、車の乗り降りも大変なほどだし、気が動転していたこともあるんでしょう。

で、そこでは腰だったか骨盤だったか、とにかく歪んでいて、左足が右足より長くなってしまっているとのことで、矯正を受けたそうなんです。

そうしたら、その日の夜には、痛みの範囲が広がって、余計に具合が悪くなってしまった、というのです。

それで、不安になって、翌日電話をかけてこられたわけです。

実際には、その日は空き時間がなかったので、一晩休んで、次の日に来てもらうことになりました。

 

体を見てみると、確かに左足が右足よりも長くなっていました。

だけどその人の場合は、元々左足のほうが長い癖があって、決してそれは異常でもなく、ましてやそれがギックリ腰の原因とは考えられませんでした。

 

おかしいのは右の腰、それもさかのぼれば、本当は腰が原因ではなく、はもっと別の問題です。

尋ねてみると、最初に痛み出したのは右の腰やお尻のほうで、矯正を受けた後は痛みの範囲が広がったような、全体が更に痛いような、そんな感じになってしまったようです。

本来、体が良くなる過程では、痛みの箇所がある程度限定されていって、やがて薄まっていく、というケースが多いですが、矯正の結果、その逆になってしまったわけです。

 

これは明らかに、誤った見立て、誤った矯正です。

「痛みの原因は背骨や骨盤の歪み」という、近視眼的な決めつけのもと、体の訴えを聞くこともなく、一方的な「処置」をしてしまったせいだと言えるでしょう。

 

足の長さが違うとか、肩の高さが違うとか、それらのほとんどは、末端に表れた現象に過ぎません。

そういう表面的なものだけを捉えて、「体の歪み」を発見したと思い込み、それを整えて「根本原因である歪みを整えた!」なんていうのは、あまりに素人じみた発想だと思うんです。

 

その表面の歪みに至るにも、様々な歴史があり、背景があります。

そしてその歪みは、その人にとって、必要なものであるかもしれません。

 

私達人間が、ただ置いてある「物」ではなく、常に動きを伴う生き物である以上、歪みがなく、常に全方向に対して均等であるということはあり得ません。

極端な表現ですが、動いているものには、常に「歪み」が存在します。

風が吹くのも、気圧や気温の差、つまり「歪み」があるからだし、水が流れるのも、高低差や温度差といった「歪み」があるからです。

もちろん、固定化した極端な歪みは異常なものです。

「動きのない歪み」が問題なんです。

 

つまり人の体をみるということは、その形の違いを見るのではなく、内にある動き、力、勢いというようなものを見ることだと思います。

これは、レントゲンや血液検査などでわかるものではありません。

かと言って、肩の高さや足の長さを比べて分かるものでもありません。

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