先日整体を受けにこられた方から聞いた話です。
ある日たまたま、人に誘われたか何かで、「骨盤矯正」の体験会みたいなものに参加されたそうです。
体験会といっても、歪みの検査だけのようですが、その際に「もの凄く骨盤が歪んでいる、すぐに矯正しないとダメです!」というようなことを強く言われたそうなのです。
結局その場ではその矯正を受けなかったそうですが、やはりそこで言われたことがずっと頭に残っていて、不安なまま時を過ごし、当塾を訪ねてこられたわけです。
確かに、その方の骨盤には歪みがみられました。
だけど話を聞くと、学生の頃に膝を痛め、ずっとその膝をかばいながら数十年間を過ごし、手術の経験もある、ということでした。
そういう経緯があるならば、骨盤が歪んでいるのは当然のことです。
でも大事なことは、骨盤を歪ませることで、痛んだ膝をかばっている、ということなんです。
「骨盤を歪ませることでバランスを取っている」と言ってもいいでしょう。
はっきり言って、手術を受けた箇所というのは、自然治癒力も働かなくなります。
こればかりはどうしようもありません。
自然の山中に道路を建設すると、一気に生態系が乱れるのと同じです。
川の流れが寸断されるような感じで、そこだけ連携が途切れてしまうのです。
だから手術を受けた場所というのは、それ以上良くなることが難しいのです。
その分、他の場所でその箇所の働きを補うしかありません。
簡単に言うと、左足の働きが悪くなれば、その分右を余計に使うことになるわけです。
そうすると、体は右を左以上に使いやすくするために、骨盤や背骨、筋肉などの微妙な「配置換え」を行いながら、最適の「シフト」を作ろうとするわけです。
ですから当然、「左右均等」なんていう形にはなりません。
なってはいけません。
だけど、多くの施術家さん達の頭の中には、「歪み=万病の元」という先入観があります。
体の中で起こっている様々な背景に目を向けることなく、近視眼的に、「まっすぐじゃないから」「左右均等じゃないから」という理由で「異常だ」と決めつけ、矯正を施そうとします。
仮に矯正をして真っ直ぐになったとしても、それは見た目上整っただけです。
よく「真っ直ぐになりました」というビフォー/アフターの写真が掲示されていたりもしますが、これで整ったと思っていたら大間違い。
実は体の中の「シフト」はかき乱されてしまっているわけです。
この方の骨盤の歪みというのは、長年膝の問題を抱えながら、一生懸命バランスを取ろうとしている「頑張ってきた姿」です。
施術家の先入観で、それを一瞬で帳消しになんてしてはいけないのです。
この方の膝の怪我に限らず、それぞれの人の歪みの裏には、それぞれの背景があるのです。
その歪みがあることによって、整っている、バランスを保っていることもとても多い。
もちろん、歪みなくバランスを保っていられることが理想ではありますが、それは「絵に描いた餅」に過ぎないでしょう。
生きている人間の心身には、様々なストレスが常にかかっているものです。
そんな中でバランスを取りながら、私達は日々、生きているのです。
整体というのは、その背景を踏まえて、体・心に向き合って行くことです。
近視眼的に、表面の形だけを整えるようなものではないのです。